1. 導入|ナウシカが“いなかった世界”を想像してみる
原作『風の谷のナウシカ』を読み終えたあと、ふと考えたことがある。
「もしナウシカが途中で死んでいたら、世界はどうなっていたのか?」
この問いは単なる仮定ではなく、
ナウシカという存在の“物語的意義”を逆照射するための重要な視点だ。
彼女がいなければ、
世界は、科学と信仰、自然と人間、戦争と復讐──
あらゆる“対立”がそのまま激突し、取り返しのつかない事態に至っていただろう。
“不在の世界線”を想像することは、
“ナウシカが何をつないだか”を知ることでもある。
2. ナウシカが不在だった場合の世界線

ナウシカが腐海で命を落としていた、あるいは戦火に巻き込まれていたとする。
その場合、世界の構造は以下のように崩壊に向かう。
- クシャナはトルメキア宮廷と対立したまま孤立
- 土鬼(ドルク)は統制を失い、ナムリスが暴走
- 風の谷はトルメキアに吸収され、従属国へ
- 巨神兵は制御を失い、暴走または戦略兵器として利用される可能性大
- 腐海と王蟲の存在は理解されず、ひたすら破壊の対象に
ナウシカが「つなぎ役」だったことが、
その不在によって露骨に浮かび上がる。
3. 調停者不在がもたらす連鎖反応
ナウシカは、ただの“主人公”ではなかった。
彼女は物語内の全勢力と関わり、
異なる価値観を橋渡しする“調停者”として機能していた。
- 虫たちと心を通わせた最初の人間
- トルメキア・土鬼・風の谷いずれにも依存しない立場
- 科学と信仰、どちらにも染まらない“第三の存在”
彼女の不在は、
全ての要素が“孤立”し、“対話”を失うことを意味していた。
4. 「争いの論理」が止められなくなる構造

ナウシカがいない世界では、次のような連鎖が起きていただろう:
- クシャナは“正義の侵略”を止められない
- ナムリスは“完全なる進化”を止められない
- 墓所の主は“人類の再設計”を遂行する
- 王蟲たちは恐怖され、攻撃され、暴走する
どの要素も、“歯止め”を失うことで暴走に至る。
ナウシカの存在は、単なる行動ではなく、
「全体をつなぐ論理」の役割を果たしていた。
5. ナウシカが象徴したものとは何か?
ナウシカは、神や救世主ではなかった。
彼女自身も苦しみ、迷い、泣き、怒る人間だった。
だが彼女は、「知ること」「対話すること」「受け入れること」をやめなかった。
だからこそ、周囲は彼女に“可能性”を見出した。
- クシャナは、彼女に“対話による戦いの終わり”を見た
- ナムリスは、彼女に“死を受け入れる意味”を感じた
- 王蟲たちですら、彼女を“恐れずに見つめる存在”とした
ナウシカは、“再構築の象徴”だった。
彼女がいたことで、バラバラだった世界が“繋がる余地”を持てた。
6. まとめ|IFから浮かび上がる“物語の核”

もしナウシカが死んでいたら──
世界は争い、科学は暴走し、自然は破壊され、
そして“未来”は完全なシステムに管理されていた。
だが、彼女は死ななかった。
彼女は存在した。迷いながら、苦しみながら、それでも選んだ。
物語の核は、“ナウシカが何をしたか”ではない。
“ナウシカが存在したこと”そのものが、世界を変えた。
そしてそのことを、私たちは“存在しなかったIFの世界線”から逆算して知る。
それはきっと、
ナウシカが最も望んでいた「誰もが選び続けられる未来」だった。
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